デジタル信号処理10

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# 平均値フィルタによる雑音抑制

平均値フィルタ(移動平均フィルタ)は、音声信号などに含まれる高周波数の雑音成分を抑制し、低周波数の主要成分を残すために用いられる基本的なディジタルフィルタである。本資料では、フィルタの概要から計算式、雑音抑制の理論、線形システムとしての位置づけを整理する。

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## 1. ディジタルフィルタの概要

### ディジタルフィルタのしくみ
- ディジタル入力信号 x(n) → **ディジタルフィルタ** → ディジタル出力信号 y(n)
- 足し算・掛け算を主体とした演算の組み合わせ
- この演算の組み合わせを適切に与えることによって、雑音除去が実現できる

#### 図1: 平均値フィルタの信号の流れ
```mermaid
flowchart LR
    X["入力信号 x(n)"] --> A["加算・平均化"]
    A --> Y["出力信号 y(n)"]
    subgraph フィルタ内部
        A
    end
    %% M 個のサンプルを足し合わせて 1/M を掛ける
```


### 今回扱うフィルタ
**平均値フィルタ(移動平均フィルタ)**


## 2. 平均値フィルタ

### M点の平均値フィルタの計算式

$$
y(n) = \frac{1}{M} \{x(n) + x(n-1) + x(n-2) + \cdots + x(n-M+1)\}
     = \frac{1}{M} \sum_{k=0}^{M-1} x(n-k)
$$

### 説明
出力信号のn番目のサンプルy(n)の値を、「入力信号のn番目からn-(M-1)番目までにわたる合計M個のサンプル(すなわちx(n), x(n-1), ⋯, x(n-M+1))の平均値」として与える。

### フィルタ係数
平均値フィルタでは、すべてのフィルタ係数の値が **1/M** となる。

$$
y(n) = \frac{1}{M}x(n) + \frac{1}{M}x(n-1) + \frac{1}{M}x(n-2) + \cdots + \frac{1}{M}x(n-(M-1))
$$

(フィルタ係数は合計M個)

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## 3. 平均値フィルタによる雑音除去の原理

### 3.1 時間領域に基づく説明

#### 雑音の特性
- 雑音は不規則な形であるため、激しく時間変動する

#### 移動平均の効果
- 移動平均の演算によって、激しい時間変動の成分が抑制され、滑らかになった(平滑化された)出力信号が得られる
- 移動平均のサンプル数を増やすことによって、平滑化の度合いが強くなる
- **注意**:平均のサンプル数を増やし過ぎると、雑音とともに所望の信号の成分も過剰に失われる

※参考:新型コロナ感染者の7日間移動平均も、これと同じ原理である

### 3.2 周波数領域(スペクトル)に基づく説明

#### 基本概念
- **周波数領域**:時間領域をフーリエ変換したもの
- **スペクトル**:時間領域の信号波形をフーリエ変換したもの

#### 注目すべき3つのスペクトル
1. **入力信号(音声+雑音)の振幅スペクトル |X(f)|**
2. **平均値フィルタの振幅スペクトル |H(f)|**
3. **出力信号(平均値フィルタの出力)の振幅スペクトル |Y(f)|**

#### 平均値フィルタの振幅スペクトル |H(f)| とは
平均の演算で使っているM個のフィルタ係数(1/M, 1/M, ⋯, 1/M)を「信号」と見なして、その「信号」のフーリエ変換の絶対値をとったもの。

#### 図2: 平均値フィルタの典型的な振幅特性(概念図)
```
|H(f)|
1.0 ┤───────╮
    │       │╲
0.5 ┤       │ ╲
    │       │  ╲
0.0 ┼───────┴───╲── f
        低周波     高周波
```
低周波域では係数和がほぼ 1 のため透過し、高周波域ではサンプル同士が打ち消し合うため減衰する。

#### 重要な関係式
$$
|Y(f)| = |H(f)| \times |X(f)|
$$

※この理論は、平均値フィルタを含めた任意の線形システムに対して成り立つ

### 3.3 雑音抑制できる理由(周波数領域の観点から)

#### フィルタ入力信号 |X(f)| について
- **声の主要成分**:低い周波数領域に集中している
- **雑音の成分**:高い周波数領域に集中している

#### 平均値フィルタ |H(f)| について
- **低い周波数領域**:|H(f)|の値は **1に近い**(通過させる)
- **高い周波数領域**:|H(f)|の値は **0に近い**(抑制する)

#### フィルタ出力信号 |Y(f)| について
上記の特徴と、|Y(f)| = |H(f)| × |X(f)| より:
- **低い周波数領域の成分(声)**:ほぼ残る
- **高い周波数領域の成分(雑音)**:抑制される

### まとめ:平均値フィルタで雑音抑制できる理由
1. 人の声は低周波領域に集中している
2. 雑音は高周波領域に集中しやすい
3. 平均値フィルタは、低周波領域の成分を通過させ、高周波領域の成分を抑制させる特性をもつ(**ローパスフィルタ**)

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## 4. 補足:線形システムについて

### 4.1 線形システムとは
以下に述べる線形性が成立するシステムのこと。

#### 線形性
関数f(n), f₁(n), f₂(n)がそれぞれ与えられているとする。このとき、任意の実数aとbに対して以下の2つの関係式を成り立たせる作用素Sは、線形性を満足する作用素である。

$$
S[af(n)] = aS[f(n)]
$$

$$
S[af_1(n) + bf_2(n)] = aS[f_1(n)] + bS[f_2(n)]
$$

**平均値フィルタは、線形性を満足するシステムである。**

### 4.2 線形性を満たさないシステムの例
以下の作用素Sによって与えられるシステム

$$
y(n) = S[x(n)] = x^2(n)
$$

は、線形性を満たさない(すなわち**非線形システム**である)。

#### 理由
入力信号をax(n) と与えたとき、出力は

$$
y(n) = S[ax(n)] = a^2 x^2(n)
$$

となり、y(n) ≠ aS[x(n)] と結論づけられるので、このシステムは線形性を満たさない。

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## 5. まとめ

### 平均値フィルタにおいて成立する理論(振幅スペクトルに基づいた理論)
$$
|Y(f)| = |H(f)| \times |X(f)|
$$

※この理論は、平均値フィルタを含めた任意の線形システムに対して成り立つ

### 平均値フィルタを使って雑音抑制できる理由(振幅スペクトルの観点から)
1. 人の声は低周波領域に集中している
2. 雑音は高周波領域に集中しやすい
3. 平均値フィルタは、低周波領域の成分を通過させ、高周波領域の成分を抑制させる特性をもつ(**ローパスフィルタ**)

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Citation

unjuno, “デジタル信号処理10,” unjuno'sResearchLibrary, accessed October 7, 2026, https://archive.unjuno.org/items/show/141.

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