日本国憲法14

Dublin Core

Creator

Date Created

Rights

CC BY-NC 4.0 - 非営利目的のみ許可

note Item Type Metadata

note

# 職業選択の自由(憲法22条1項)

## 1. 憲法条文

**日本国憲法第22条第1項**
「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」

## 2. 職業選択の自由の意義

### 2.1 保障の範囲

職業選択の自由は、以下の3つの側面から構成される:

1. **自己の従事する職業を決定する自由(狭義の職業選択の自由)**
   - 職業を開始する自由
   - 職業を継続する自由
   - 職業を廃止・変更する自由

2. **自己の選択した職業を遂行する自由(職業遂行の自由・営業の自由)**
   - 職業活動の内容・態様を自由に決定する自由
   - 薬事法事件大法廷判決(最大判昭和50年4月30日)は、「職業」の性格と意義から、職業活動の内容・態様が自由であることも要請されるとの理由から、職業遂行の自由の保障が「職業選択の自由」の保障に内包されると解している

```mermaid
graph TD
    A[職業選択の自由<br/>憲法22条1項] --> B[狭義の職業選択の自由]
    A --> C[職業遂行の自由<br/>営業の自由]
   
    B --> B1[職業を開始する自由]
    B --> B2[職業を継続する自由]
    B --> B3[職業を廃止・変更する自由]
   
    C --> C1[職業活動の内容・態様を<br/>自由に決定する自由]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style B fill:#fff4e1
    style C fill:#fff4e1
```

### 2.2 「職業」の概念

「職業」とは、人が社会において、通常は「自己の生計を維持するためにする」「継続的活動」を意味する。そして、「職業」は以下の性質を有する:

- **分業社会における社会的機能分担の活動たる性質**
- **自己の個性を全うすべき場として、個人の人格的価値との不可分関連性**

## 3. 職業選択の自由の限界

### 3.1 規制の必要性

職業は、その性質上、社会的相互関連性が大きいものであるから、これを無制限に許すと「社会生活における安全の保障や秩序の維持等」が脅かされるおそれがある。また、社会国家の理念を実現するために「国民経済の円満な発展や社会公共の便宜の促進、経済的弱者の保護等の社会政策及び経済政策上の積極的な」規制を加える必要性も高い。

憲法22条1項が「公共の福祉に反しない限り」という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨によるものである。

```
職業活動の多様性⇔規制の多様性
                    ↓
                多数の法的規制の必要性
```

### 3.2 規制の類型

職業規制には、以下の5つの類型がある:

1. **届出制**  
   例:理容業等

2. **許可制**  
   例:風俗営業、飲食業、貸金業等

3. **資格制**  
   例:医師、看護師、薬剤師、弁護士等

4. **特許制**  
   例:電気、ガス、バス等の公益事業

5. **国家独占**  
   例:(旧)郵便事業、旧たばこ専売制等

```mermaid
graph LR
    A[職業規制の類型] --> B[届出制<br/>理容業等]
    A --> C[許可制<br/>風俗営業・飲食業・貸金業等]
    A --> D[資格制<br/>医師・看護師・薬剤師・弁護士等]
    A --> E[特許制<br/>電気・ガス・バス等の公益事業]
    A --> F[国家独占<br/>旧郵便事業・旧たばこ専売制等]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style B fill:#fff4e1
    style C fill:#fff4e1
    style D fill:#fff4e1
    style E fill:#fff4e1
    style F fill:#fff4e1
```

## 4. 規制の目的

### 4.1 消極目的の規制

**定義:** 主として国民の生命及び健康に対する危険を防止、除去または緩和するためになされる規制。通常、**警察的規制**と呼ばれてきたものである。

**特徴:**
- この消極的・警察的目的のための規制は、**警察比例の原則**(規制措置は社会公共に対する障害の大きさに比例したもので、規制の目的を達成するために必要な最小限度にとどまらなくてはならないという原則)にも届くものでなければならない
- 各種の営業許可制は、おおむね消極目的規制に属する

### 4.2 積極目的の規制

**定義:** 福祉国家の理念に基づいて、経済の調和の取れた発展を確保し、特に社会的経済的弱者を保護するためになされる規制。社会・経済政策の一環としてとられる規制である。

**例:**
- 「大規模小売店法」大型スーパーなどから中小企業を保護するための競争制限

```mermaid
graph TD
    A[規制の目的] --> B[消極目的の規制<br/>警察的規制]
    A --> C[積極目的の規制<br/>社会・経済政策]
   
    B --> B1[目的:<br/>国民の生命・健康の<br/>危険防止・除去・緩和]
    B --> B2[原則:<br/>警察比例の原則]
    B --> B3[例:<br/>各種営業許可制]
   
    C --> C1[目的:<br/>経済の調和の取れた発展<br/>経済的弱者保護]
    C --> C2[例:<br/>大規模小売店法]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style B fill:#ffe1e1
    style C fill:#e1ffe1
```

## 5. 違憲審査基準

### 5.1 二重の基準論

職業選択の自由は、精神的自由と比較して、公権力による規制の要請が強く働くため、その分だけ職業を規制する立法の違憲審査において、裁判所が立法裁量を尊重するべき要請が強く働く。

```mermaid
graph TD
    A[基本的人権] --> B[精神的自由]
    A --> C[経済的自由<br/>職業選択の自由]
   
    B --> B1[審査基準:<br/>厳格な基準]
    B1 --> B2[1. 規制目的の不可侵性]
    B1 --> B3[2. 目的達成手段の必要性]
   
    C --> C1[審査基準:<br/>合理性基準]
    C1 --> C2[消極目的規制]
    C1 --> C3[積極目的規制]
   
    C2 --> C21[厳格な合理性基準]
    C21 --> C211[1. 立法の規制目的の正当性]
    C21 --> C212[2. より穏やかな規制手段の有無]
   
    C3 --> C31[明白の原則<br/>緩やかな合理性基準]
    C31 --> C311[1. 立法の規制目的の正当性]
    C31 --> C312[2. 著しく不合理であることが<br/>明白か否か]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style B fill:#ffe1e1
    style C fill:#fff4e1
    style C2 fill:#ffe1e1
    style C3 fill:#e1ffe1
```

### 5.2 規制目的二分論とその批判

**従来の理解(規制目的二分論):**
- 積極目的規制については「明白の原則」(緩やかな合理性基準)を採用
- 消極目的規制については「厳格な合理性の基準」を採用

**規制目的二分論への批判:**
1. 職業規制の中には積極目的と消極目的を区別することが困難なものもある(公衆浴場法事件判決等)
2. 積極目的と消極目的の他にも職業の自由を規制する正当な目的が考えられる(酒類販売免許制事件判決における「国家の財政目的」等)

### 5.3 現在の理解

現在では、職業規制に関する判例の違憲審査の手法について、規制目的二分論で理解するのではなく、**「職業の自由の制限態様、制限の重大性、制限目的の具体的検討を通じて、立法裁量の範囲と目的・手段審査の審査密度を決定しているのが、判例法理の真の姿だ」**と考えられている。

**審査基準の厳格度を決定する要素:**

1. **規制の態様**
   - 職業規制が狭義の職業選択の自由まで制約するものであるなど、職業の自由に対する強力な制限である場合には、立法裁量が縮小し、違憲審査基準の厳格度が高まる
   - 職業規制が職業遂行の自由に対する制約にとどまるものであるなど、職業の自由に対する強力な制約であるとはいえない場合には、立法裁量が広くなり、違憲審査基準の厳格度が緩和される

2. **規制の目的**
   - 規制の目的から、裁判所が規制を支える立法事実を確実に把握する可能性の高低を明らかにする
   - 立法府による政策的判断や専門技術的判断が多分に必要とされる規制(積極目的や財政目的に基づく規制)については、原則として、厳格な違憲審査基準を採用することができない
   - 消極目的に基づく規制など、規制の目的に照らして立法府による政策的判断や専門技術的判断がさほど必要とされない規制については、裁判所が規制を支える立法事実を確実に把握する可能性が高くなるから、規制の強度によっては、厳格な合理性の基準を採用することができる

```mermaid
flowchart TD
    A[職業規制の違憲審査] --> B{規制の態様}
    B -->|狭義の職業選択の自由<br/>まで制約| C[立法裁量縮小]
    B -->|職業遂行の自由への<br/>制約にとどまる| D[立法裁量拡大]
   
    A --> E{規制の目的}
    E -->|積極目的・財政目的| F[政策的判断が必要<br/>厳格な基準採用困難]
    E -->|消極目的| G[立法事実把握可能<br/>厳格な合理性基準採用可能]
   
    C --> H[審査基準の厳格度↑]
    D --> I[審査基準の厳格度↓]
    F --> I
    G --> H
   
    style A fill:#e1f5ff
    style C fill:#ffe1e1
    style D fill:#e1ffe1
    style F fill:#e1ffe1
    style G fill:#ffe1e1
    style H fill:#ffe1e1
    style I fill:#e1ffe1
```

## 6. 重要判例

### 6.1 小売市場距離制限事件(積極目的の規制)

**判決:** 最大判昭和47年11月22日

**事案:**
小売商業調整特別措置法により、小売市場の開設に許可が必要とされ、その許可基準として、大阪府では新設しようとする小売市場から最も近い小売市場へ至るために通常利用される道路の距離のうち最も短いものが700メートル未満である場合は許可されない、とする距離制限が設けられていた。本件では、この距離制限が職業選択の自由に違反するかが争われた。

```
憲法22条(職業選択の自由)
        ↓
憲法の違反しない法律
        ↓距離制限          
    ←-------------------小売商←裁判所
好きな場所に開設する自由
```

**判決要旨:**
本件の規制の目的は、経済的基盤の弱い小売商の相互間の過当競争(同業の企業が市場占有率を拡大しようとして起こる過度の競争状態。価格が引き下げられ、正常以下の利潤しか得られない。)によって共倒れから保護する**積極的規制**であると認定した。

最高裁は、「国が積極的な社会経済政策の実施の一手段として、立法により個人の経済活動に対し一定の規制措置を講ずることは、それが目的達成のため必要かつ合理的な範囲にとどまる限り、憲法上許容される」とし、**明白の原則**(当該規制処置が著しく不合理であることが明白か否か)を採用して、規制を合憲とした。

**結論:** 距離制限は職業選択の自由に違反しない

```mermaid
graph LR
    A[小売市場距離制限事件<br/>最大判昭47.11.22] --> B[規制目的]
    A --> C[審査基準]
    A --> D[判決]
   
    B --> B1[積極目的規制<br/>経済的弱者保護]
   
    C --> C1[明白の原則<br/>緩やかな合理性基準]
   
    D --> D1[合憲<br/>距離制限は違反しない]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style B1 fill:#e1ffe1
    style C1 fill:#e1ffe1
    style D1 fill:#e1ffe1
```

### 6.2 薬事法距離制限事件(消極目的の規制)

**判決:** 最大判昭和50年4月30日

**事案:**
旧薬事法6条2項および広島県条例は、薬局の開設に適正配置規制(距離制限)を定めていた。具体的には、薬事法6条2項が適正配置を許可要件とし、その具体的基準は各都道府県条例に委任されており、広島県条例では既存の薬局との間に最短距離で概ね100mとの距離制限を設けていた。本件では、この適正配置規制が職業選択の自由に違反するかが争われた。

```
憲法22条(職業選択の自由)
        ↓
憲法の違反しない法律
        ↓距離制限          
    ←-------------------薬局←裁判所
好きな場所に開設する自由
```

**判決要旨:**
本件の薬局の適正配置規制は国民の生命及び健康に対する危険の防止という**消極的規制**のための規制であると認定した。

しかし、「薬局の偏在→競争激化→不良医薬品の供給の危険」という因果関係は、確実な根拠に基づく合理的な判断とは認めがたく、本適正配置規制の必要性と合理性を肯定するには足りないと判断した。

最高裁は、**厳格な合理性の基準**を採用し、以下の2点を審査した:
1. 立法の規制目的の正当性
2. 同じ目的を達成できる、より穏やかな規制手段の有無

本件では、規制目的は正当であるが、規制手段の必要性と合理性が認められないとして、違憲と判断した。

**結論:** 距離制限は職業選択の自由に違反する

```mermaid
graph LR
    A[薬事法距離制限事件<br/>最大判昭50.4.30] --> B[規制目的]
    A --> C[審査基準]
    A --> D[判決]
   
    B --> B1[消極目的規制<br/>生命・健康の危険防止]
   
    C --> C1[厳格な合理性基準]
    C1 --> C11[1. 規制目的の正当性<br/>✓ 正当]
    C1 --> C12[2. より穏やかな手段の有無<br/>✗ 必要性・合理性なし]
   
    D --> D1[違憲<br/>距離制限は違反する]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style B1 fill:#ffe1e1
    style C1 fill:#ffe1e1
    style C11 fill:#e1ffe1
    style C12 fill:#ffe1e1
    style D1 fill:#ffe1e1
```

**判決の影響:**
この判決を受け、昭和50年に薬事法が改正され、薬事法6条2項と4項の薬局の距離制限が廃止された。

## 7. 判例の意義

### 7.1 小売市場事件の意義

- 積極目的規制について、明白の原則を採用した先例として重要な意義を有する
- 社会経済政策の実施のための規制について、立法府の裁量を広く認める姿勢を示した

### 7.2 薬事法事件の意義

- 消極目的規制について、厳格な合理性の基準を採用し、違憲と判断した先例として重要な意義を有する
- 規制目的が正当であっても、規制手段の必要性と合理性が認められない場合には違憲となることを明らかにした
- 職業選択の自由に対する強力な制限(狭義の職業選択の自由の制約)については、厳格に審査する姿勢を示した

## 8. まとめ

職業選択の自由は、憲法22条1項により保障される重要な基本的人権であるが、その性質上、社会的相互関連性が大きいため、広汎な規制を受ける人権と理解されている。

違憲審査においては、規制の目的(積極目的・消極目的)だけでなく、規制の態様(職業選択の自由への制約の程度)も考慮して、立法裁量の範囲と審査基準の厳格度が決定される。

小売市場事件と薬事法事件は、職業選択の自由に関する規制の合憲性判断において、規制目的と規制態様の両面から審査する現在の判例法理の基礎を形成した重要な判例である。

```mermaid
graph TB
    A[職業選択の自由<br/>憲法22条1項] --> B[規制の必要性]
    A --> C[違憲審査]
   
    B --> B1[社会的相互関連性]
    B --> B2[公共の福祉]
   
    C --> C1[規制の態様]
    C --> C2[規制の目的]
   
    C1 --> C11[狭義の職業選択の自由<br/>への制約]
    C1 --> C12[職業遂行の自由<br/>への制約]
   
    C2 --> C21[積極目的規制]
    C2 --> C22[消極目的規制]
   
    C11 --> D[審査基準の厳格度↑]
    C12 --> E[審査基準の厳格度↓]
   
    C21 --> F[明白の原則<br/>緩やかな基準]
    C22 --> G[厳格な合理性基準]
   
    F --> H[小売市場事件<br/>合憲]
    G --> I[薬事法事件<br/>違憲]
   
    style A fill:#e1f5ff
    style C fill:#fff4e1
    style H fill:#e1ffe1
    style I fill:#ffe1e1
```

Collection

Citation

unjuno, “日本国憲法14,” unjuno'sResearchLibrary, accessed October 6, 2026, https://archive.unjuno.org/items/show/165.

コメント